壺の中の泉

きらめきたい

一体全体何なのだ/仮面ライダービルド

 誰が想像できただろうか。子供向けのヒーロー番組で「戦争」というテーマを扱うなんて。
 賛否両論あると思うけれど、わたしはその方が好きです。八方美人なドラマもわるくないけれど、振り切れている方がその作品が明確に軸を持っているのだなあと分かりやすくていい。それも答えに余白があるもの。
 例えば10年前のドラマでは人々の連絡ツールはガラケーだったのに今のドラマではスマホが当たり前のように使われている。そういう時代の反映が、特にニチアサのように何年も歴史がありシーズンを重ねるドラマにおけるおもしろい要素だと思います。いわゆる時事ネタ、時代情勢の反映はあらゆるフィクションの中に必ずある。それが携帯電話なのか戦争なのかという話です。
 私は子供の親ではないただの若者だから現状は分かりませんが、今の子供達に考えさせようとしているということは分かります。これってどうなの?君ならどう思う?って。子供には重すぎるかもしれないけれど、だからって幸せなことばかりの中で育ってしまうのも、子供にとってプラスにはならない。それは甘いよって、日曜朝のヒーロー番組で訴えかけているのかなと思いました。
 放送が始まった頃はそんな気配が全くなかったとは言えないけれど、ビルドはやさしい世界でした。子供のかわいい笑顔*1やお母さんの卵焼き、それに徐々に縮まる二人の絆が描かれていて、気持ちは前向きになれた。それがパンドラボックスの光を浴びて欲を剥き出しにされた大人達の陰謀で戦争が始まって、今はしんどいことばかりです。何週間か前から主人公が笑っていません。きつい。今思えば、初っ端から「戦争」を扱っていたらメインターゲットの子供達を掴めない、やさしい世界を見せて、それが戦争によってこうなるんだということを示そうとしているのかなあと考えています。

 初期の頃からこれは好みが分かれそうな話だなと思ってあまり強くおすすめはしていませんでしたが、昨日の22話を見て、とりあえず見て!と言いたくなりました。ハマってほしいからとかではなく、ただ知ってほしい。
 重たいだけではありません。エモいです。エモい!おたくはみんな好きでしょ?イケメン達の激エモドラマ…

東と北と西(ざっくり布教)

 火星から持ち帰られたパンドラボックスの光によってスカイウォールと呼ばれる壁が現れ、日本が東都、北都、西都の3つに分断された世界で物語は展開します。怪物の名はスマッシュ!
 主人公・桐生戦兎は東都の仮面ライダー。記憶喪失です。彼といろいろあって運命を共にすることになる2号ライダー・万丈龍我と戦兎が衝突しながらも絆をつくっていくのが第一章でした。あと不思議な力を持つヒロインとフリー記者のお姉さんを合わせて4人を東都サイドとして見ています。
 ウォーズ編*2に突入して現れたのが北都のライダー・猿渡一海。元々は農場を経営していて一緒に働いていた三羽ガラスに”カシラ”と慕われています。ちなみに三羽ガラスは自我のあるスマッシュです。この4人が北都サイドです。
 そして次回23話からいよいよ西都の登場です。兄弟戦士ですって!ビルドは東と北と西でそれぞれの色があって、かつてスポーツ漫画にハマって学校別に思いを馳せるおたくだったわたしはこういう部分にときめきを感じてしまいます。
 
 あとおもしろいところと言えば、本編がひたすらシリアスなのであらすじ紹介だけが救いです。メタ発言をガンガンぶっ込んでくるので毎回ささやかな楽しみとなっています。
 生命と生命の物語となっているので、それに役者陣がうまい(大事)ので、朝からものすごいドラマを浴びせられます。ともあれ、まずは見て!ください!とりあえず!

運命のバランス

 22話-涙のビクトリー-は結果だけ見れば”よかった”となる話であったのにも関わらず、誰も救われていなくて、しんどくて、苦しいことに変わりはなくて、ものすごい回でした。翌日にして5周リピしてます(びっくり!)
 21-22話は戦争の現実を描いていたように思えます。そしてたたかう者に強いられること。生半可な覚悟では始まってしまった戦争は止められない。ハザードトリガーも、一度作動したら止められない。止めるために戦兎が生み出した方法は”自らの消滅”でした。本当はそんなことしなくても方法はあったはずなんです。21.5話とも言えるスピンオフで内海さんはハザードフォームを解除させることができているから。だから戦兎が自らの消滅を覚悟の表明と相手の一人を消滅させた贖罪として自分で選んだのかなあと思いました。美空ちゃんにそれをさせるなんてひどいよね。目を逸らしてごまかして、何もかも一人で背負おうとして、いい加減にしてくれと見ていて思うけれど、やっぱり一人では何もできない人なんだと思います。人間なんてみんなそうかな。そんな無力な戦兎の姿が、犬飼さんの演技が生々しいな、としみじみ思います。やっぱりああいう悲哀な運命が似合うお顔してる…(主観)
 
 一方で龍我くんはいい意味で迷いを振り切ることができる人。迷っても現状打破のために動ける人、というのかな。
 人々を守るために戦う正義のヒーローというのは分かりやすそうで分かりづらい。抽象的で曖昧なんですよね。一体どういうこと?という疑問を素直に抱いたのが万丈龍我という突然正義の戦いに巻き込まれた人間でした。たしかによく分からないまま正義のヒーローにそうであれと心のどこかで思っていた。きっとみんなが気付かぬふりをしていた疑問を呈してくれたのです。
 平ジェネで彼が出した答えが、そういう正義とかよく分からないけれど誰かを守るために戦う、”俺が信じた、信じてくれたやつのために”でした。冤罪を晴らすことしか考えていなかった彼の潜在的な力を正しい方向に使えるようにと導いてくれた*3戦兎が、彼の戦う理由。平ジェネでそう明言されたこと、鮮明に覚えてる。
 戦兎は今の惨状を生み出したのは自分だと責任を感じて笑わなくなったから、あの笑顔を取り戻すために自分が戦争を終わらせてやる。そんな龍我くんの思いも知らず、戦兎は一人で勝手に自分の命もろとも終わらせようとしている。…と思ったら戦兎は龍我くんの気持ちを”痛いほど分かっている”のだから、おまえな~~~!という気分ですね。視聴者はいい加減にキレそうです。
 二人はどうしようもなくベストマッチで、だからこそすれ違うのだと思います。ど、どうしようもない~~!!美空ちゃんや紗羽さんがいないとたいへんだね。そして戦兎と美空ちゃんのどうしようもない関係をどうにかできるのが紗羽さんや龍我くん。こういう十字架みたいな関係性を複雑につくりあげている東都の4人が大好きだなあと22話を見て気付かされました。

二人ということ

 何なのだろうな、と思います。ビルドは桐生戦兎と万丈龍我の物語でもあるって初期の頃からやたら公式サイドが主張していました。たしかに1話と比べれば22話での二人の関係はかなり変化しています。でも分からない。二人を表す言葉が見当たらないし、二人の運命ってなんなのかも分からない。どうして出会ったのか、偶然とは思えない。ただひたすら熱いです。”ベストマッチな奴ら”*4がゼロから絆を創り上げていくのが分かるから。
 自我を失って暴走する戦兎を止められるのは「俺しかいねぇ」って、龍我くんはどんな気持ちで言ったのだろうって考えると重みがすごくてしんどい。すれ違ってどうしようもないのは、二人がまだお互いを大切にし過ぎているからかなと思います。一人で背負おうとするのほんとうにやめてほしいです。きっと彼らは気持ちや言葉ではどうにもならなくて行動でしか前に進めない。話し合いでどうにかなる関係じゃない。ベストマッチ過ぎるのもなんだかなあと思います。でもそういうのを乗り越えたらすごいんだろうな。何が、って分からないけれど。ビルドシステムが機械と生き物でベストマッチであるのと同じように、彼らも対照的な性質でベストマッチなんです。人間版ベストマッチ!(?)
 ただ明確に分かるのは”二人”ということです。二人は二人でしかない。そう思います。どうにも言葉にできないけれど、強いて言うなら主題歌の「Be the one」の歌詞を聴くとああこれかもな、と思う部分はあります。この曲はどの視点からも解釈できると感じていますが、その中でも彼ら二人を思いながら聴くとつい深読みしちゃって、「これだ」と思うのです。
 まだ未完成な”二人”のこれからを楽しみにしたいです。

溢れるエモさ

 ビルドは1話からずっと追いかけていつのまにかわたしの脳内を大きく占めるジャンルとなっていました。だから定期的に感想を書き連ねようと何度か試みて、できなかった。22話を見てようやくうまく整理できました。脚本的に心配になった時期もありましたが最後まで真剣に考えて追いかけるって決めたんです。一体何なのだ、ということをきっと最後まで考えさせられるのかもしれない。
 22話分+映画や様々な媒体の積もりに積もった考えをまとめるのはとても無茶だなとこのエントリを書きながら思っています。本当はもっともっといろんなことを考えています。8割くらいは”ベストマッチな奴ら”のことですが。猿渡さんしんどいなあとかマスターは何なんだとか美空ちゃんの境遇とか猿渡さんしんどいなあとか、考えています。ここには書ききれないくらいもっといろんなことを考えています。
 ネビュラガスを注入された自分達は人間ではなく兵器だと言う猿渡さん(みーたんファン)とネビュラガスを注入されてもう人間じゃないと言う戦兎に「あんたは人間なの」と強く言える美空ちゃん(みーたん)がどうにかなる話も見たいです。猿渡さんがみーたんファンっていう設定はいつかまた出てくるって信じてるからね…!

 なんだかまとまりきらないですが、とりあえず22話の演出がすごくて上堀内監督のお名前を覚えましたというところで締めます。二人が変身解除するときの画がエモすぎて言葉がでませんでした。ビルド、どう考えてもエモいでまとめてしまいそうになるよね…
 他ジャンルも含めて思考の水が壺から溢れ出してどうしようもないですが、もっともっと真剣に物事を考えよう、そう思います。

*1:超かわいい

*2:戦争編と言われているけれどなんとなくそうは呼びたくない

*3:自我の形成期間が1年と数ヶ月の戦兎が23年記憶を欠かすことなく生きてきた龍我くんを導く、ってすごいなあとも思いながら

*4:1話サブタイトル