壺の中の泉

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記憶こそがヒーローの存在証明/平ジェネFOREVER――『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』感想

 ヒーローは、仮面ライダーは、ちゃんといる。
 そう確固たる実感に包まれました。
 ものすごくいろんな要素が込められた難しい作品だったけれど、ただただ"無条件にイイ映画"だった。子どもたちにも大人たちにも確かな希望を与えるんだ。そりゃそうです。

 ※当記事は仮面ライダービルドのオタクが送る、平ジェネFOREVERこと『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』の感想エントリーです。ネタバレ満載!

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主たるメッセージ――問題提起と答え

 現実には仮面ライダーなど存在しない、虚構の存在だ。
 ぶっちゃけ、大きなお友達であるわたしたちが否が応でも心のどこかで分かってしまっている事実。そこにこの映画は切り込んできた。そんなメタメタな現実世界への介入をしっかりと描いていました。すごい。すごすぎる。

 結論から言うと、この問題提起に対するアンサーは「誰かが記憶していることがヒーローの存在を確かなものにする」に尽きます。つまり心の中に在る限り、彼らは在るんだ。
 確かに仮面ライダーはいるのだと、わたしたちの心に沁みました。

 この映画を観た子どもたちは幸せだなあと思います。仮面ライダーはいるんだ。そんな希望を胸に抱いて明日からもひたむきに、のびのびと、生きるんだもの。

ベストマッチ的ポイント

 この「現実には仮面ライダーなど存在しない、虚構なのだ」という切り込みに揺らぐソウゴに対し、戦兎は「現実とか虚構とか関係ない」と降りしきる雨の中で穏やかに笑います。雨に打たれる戦兎にいい思い出なんてまるでないので、正直この表情だけで心はウルウル震えてしまうのだけれど、この言葉の本当の意味が終盤で分かると泣くしかないよね。
 まあ、さておき。とにかくこの雨の中での二人のシーンはとても印象に残っています。

ソウゴ「どういうこと?」
戦兎「そのうち分かるよ」

 戦兎は最初から分かっていました。だから、つよかった。今作の戦兎は超つよい。ほんとうにつよい。

 そもそもビルドにとっては、こんな揺さぶりは意味をなさないよね。
 なぜなら物語を通してその壁を乗り越えているのだから。しかも、つくられたヒーローである桐生戦兎は、葛城巧も佐藤太郎も普通に存在する新世界では存在自体がいっそうあやふやなんです。

 ところでこの戦兎の"つよさ"は、戦兎と万丈がベストマッチであることから生まれていると思います。

 今作におけるビルド界の時間軸は新世界。登場シーンで二人が二人らしい距離感で並んで歩いていただけでもだいぶくるものがありました。わたしのチケット代1500円、この時点で元を取ったよ!!安い!!!
 それも冬服だったから、この二人は新世界でとうに季節を一つ二つ超えたんだなあって。感慨深すぎる。万丈が自分のバイクを持たず相変わらず戦兎の後ろにまたがっているのは、ずっとそうなの?!と驚きつつも二人らしいなという納得で胸が一杯になりました。
 茶化し合いながらも隠しきれないほどの絶対的で絶大な信頼があるのが二人だと思っているのだけれど、今作でもその空気がしっかり流れていて、ああ……ってなりました。
 ティードに洗脳されたフリをしてマシンビルダーを万丈のもとに遣わせる戦兎は、まさにそう。
 そしてこの戦兎、やはりつよい。

 シンゴをティードから逃がす戦兎の佇まい、超かっこよかった…。惚れる。わたしの好きな戦兎だ!
 全てが終わってから階段の上でソウゴを待っている戦兎も圧倒的かっこよさでやっぱり惚れる!と、性懲りもなく心の中でギャーギャーしたよね。
 今作の戦兎さんあまりにもかっこよすぎやしない?でもまあ、きっとこれも揺るがないつよさも理由は一つなのでしょう。

 桐生戦兎は、万丈龍我に生かされていると言っても過言ではありません。

 この作品を観ながら、ファイナルステージでのショーを思い出しました。実際、TVシリーズ本編、ファイナルショー、平ジェネFOREVERと文脈は続いています。ファイナルショーがこんなに重要だとは思わなかったなあ…。さすが49.5話。平ジェネFOREVERをビルド視点で楽しむならファイナルショーは必見です。
 ショーでの戦兎は、もし新世界に行けたとしても誰も自分のことを覚えていないかもしれないがみんなが新世界で生きていけるならそれで十分だと言いました。そして万丈はそんな戦兎に言うのです。

「そう簡単に忘れてたまるかよ」
「必ずお前を探し出してやる」

 そして実際、万丈は新世界で戦兎を見つけ出します。

 あれから季節が巡り、2018年12月。
 

 "現実とか虚構とか関係ない。"
 "誰か一人の記憶に残ればそれでいい。"

 それはもう穏やかな表情で。まぎれもなく、人間が大切な人のことを語る顔でした。わたしは戦兎のその顔が大好きです。
 戦兎にとって"誰か一人"とは万丈のこと。マシンビルダーの前に座り込んでくしゃみをする万丈の後ろ姿が映って、見せつけられたなあと思いました。

 要するに桐生戦兎は万丈龍我がいるから存在できるんです。
 戦兎をヒーローとして立たせてくれるのは万丈であるし、戦兎のアイデンティティーを支えているのも万丈。それはこれまで十二分に描かれてきたこと。
 そしてその万丈は無条件に戦兎の隣にいるわけではありません。「俺の明日を創ってくれた」戦兎をヒーローだと確信して隣に居続けます。
 この相互関係みたいなもの、うまく言えないけれど、これこそがベストマッチなんだなあ。

 お互いがいないところで本音をこぼすのすら相変わらずで、もうなんだってよくなった。これはビルドだ。ビルドがビルドだった、という万丈みたいな感想をこの映画に対して抱くことになりました。ありがとうフォーエバー。

 ビルドは、はあ?また?ということの繰り返しだとずっと思うところがありましたが。その度に戦兎と万丈が言葉を交わさずともゆっくりと絆を深めていくから、それでいいと思ってしまうわたしは公式に飼い慣らされているのでしょう。
 今作のあらすじで、"ティードに単身戦いを挑んだ戦兎は洗脳される"という部分を読んで、また?!と思ってしまいました。でも違った。戦兎はつよかった。

 わたしは今度こそ安心しました。
 戦兎がまた自分の身を大事にしないとは言い切れない(むしろそういうところは健在かもしれない)けれど、今の彼らはお互いがいる限り存在が危ぶまれることはないから。

 今作のアンサー「誰かが記憶していることがヒーローの存在を確かなものにする」は仮面ライダービルドのラスサビだなあと思いました。
 つくられたヒーローである桐生戦兎はそもそも"いない"のだけれど、でもちゃんと"いる"のです。
 それはこれまで描かれてきたこと。創る、形成するという意味のビルドという名の通り。
 万丈をはじめとする仲間たちに支えられ、新世界を創造した戦兎は確かにそこにいる。誰か一人=万丈が覚えてくれていたらそれでいい、と語る戦兎の穏やかな表情を見て、物語が終わり、そしてまた続いていくのを感じました。

 それにしても、戦兎の言うことをそのまま受け止めると戦兎が自分の存在証明を万丈にゆだねているとしか考えられないのですが、あまりにもなんだかアレじゃないですか?これがベストマッチ……だって、これだけ長ったらしく書いたりTwitterであれこれ呟いても、けっきょくずっと同じことしか言ってないんです、わたし。戦兎がそこに在れるのは万丈が隣にいるからだって。
 難解な映画でしたけど、答えはとっても分かりやすいんですね。

 戦兎、ファイナルで性懲りもなく自己犠牲精神を見せて万丈にまた叫ばれていたけれど、ねえ覚えてる???
 きっと実感してしまったんだろうな、と笑っちゃいました。何を、というと言葉では言い表せないですが。

 マシンビルダーの横に座り込んで戦兎を待つ万丈、戦兎の隣にいるのは当たり前だと思っている雰囲気がすごい。今作の彼ら、どのシーンにおいても"当たり前のようにそうしている空気"がスクリーン越しにビシビシ伝わってきます。

 そして戦兎が帰ってきて、万丈は後ろに乗って。
 主題歌が流れエンディングになるわけですが、ここの二人の会話がセリフは聞こえなくとも一体何の話をしているか全て分かってしまう。そんなわたしたちは、やはり公式に飼い慣らされているなあと思いました。
 ビルドは戦兎と万丈の物語なんだと、ほんとうに裏切らないですよね。

もうちょっとビルド的に

 脚本が武藤さんではないので、新鮮な部分もあるかもしれない*1とは聞いていたのですが、やはり。でもちゃんとしっくりきました。
 とくに自分勝手な言葉を連ねるアタルに強く当たり部屋を出ていく戦兎は新鮮でした。これはこれでいい……って思ったからすごい。
 脚本監修に武藤さんが入っているんじゃないかというくらいベストマッチがベストマッチでしたよね。
 戦兎と万丈がきっとこれからも当たり前のように隣にいる安心感を得られて大満足です。

 戦兎はやはり人々を守るヒーローで、万丈はそんな戦兎と共にある。もうちょっとそういう話をしたかったのですが、なんせ戦兎が万丈ありきのスタンスでいるものだからどうしようもない。もうちょっと対世界な部分を語らせてほしかったなあ、なんて。
 でも新世界を創造した彼のラブアンドピースはそこにあり続けるのです。万丈が覚えているしね。それに、なんと今回のお話、新世界では実際何も起きていない!起きるのはVシネだ!怖い!
 新世界を創った戦兎が万丈主体で物事を考えるのはベストマッチの行き着いた先のようであるし、これからもベストマッチな奴らが続いていくのだなと思わされます。
 ビルド組の役割はジオウへの橋渡し*2だということで、そういう意味では人々を守るヒーローの役目をこれから担っていくのはジオウなのだと分かりやすいですね。
 そういうこともあり、ビルドは終わったのだと余計に実感しました。そして続いていく、とも。
 でもよかったな……降りしきる雨の中での戦兎の穏やかな笑い顔が見れてほんとうによかった。好きな表情ばかりでこちらも穏やかな心持ちで観ることができました。本編なんて戦兎の顔を見て何度心苦しい思いになったことか……
 ほんとうに好きな表情しかなかったなあと思います。万丈のことを語る表情はやっぱり好きでした。今、幸せなんだろうな。しみじみしちゃいますね……
 とにかく、終始、これが新世界を創った男の顔…といった感じです。戦兎の顔が良すぎて存在が虚構でしかないとか言ってごめんね…

 ところでこんなにも戦兎のことを語っていますがわたしはなんと万丈推しです。彼の行動理由が戦兎だからこうなってしまうのかもしれません。ベストマッチがラブ!と言うのが正しいね。

 そして来る1月25日、Vシネクローズが公開されるわけですが。相棒はエボルト?!なんていう恐ろしいコピーに震えながらも、心の何処かで揺るぎない安心感はあります。
 一番気になるのは戦兎がどのように万丈を主人公にするのか、というところ。いやもうめちゃめちゃ楽しみです。あれほどまるで主人公と言われながらもそれは戦兎がいるからだったので、主人公・万丈龍我が果たしてどのような物語を歩むのか、純粋に楽しみなのです。
 次作Vシネクローズはビルドではなくクローズだから(また戦兎との相棒ストーリーを描くとビルドになってしまう)、という大森Pと脚本武藤さんの対談での発言を聞いて、なるほど…という気持ちと一体どうなるの?!という気持ちです。
 この対談は公式読本に掲載されています。

 まだ途中まで読んでいませんが、とても濃い。キャスト・スタッフ各位の様々な解釈を知って、いちいち泣きそうになりながら読んでいます。作り手が一人ではない仮面ライダーにおいて公式解釈は一つでないこともあるのは分かっていますが、やはり公式サイドからの「こんな解釈でした」は答え合わせをしているようで楽しいです。ただ勝手に考察・解釈していたことがおそらくその通りだろうと予測できても、はっきり言われるとブワッとくるものがあります。

 こんなにハマると思っていなかった仮面ライダービルド、これからも愛していきたいなあと思いました。まだまだ控えているコンテンツはあるし!
 それに彼らは、ずっといるもんね。

全体として

 ビルド視点で見てもとっても満足なんですが、そうでなくても想像以上に"イイ映画"でした。
 現実世界にどう切り込んでくるのかなんてことは杞憂で、仮面ライダーはいるんだ、と希望を持ち帰ることができて。

 現実世界にソウゴや戦兎らが存在していたのは、フータロスの力によって召喚されていたからでした。つまりアタルが願ったから。そしてアタルは我々を具現化したキャラクター。もうとにかくこういうのに弱い。仮面ライダーはいるんだね。それしか言えなくなっている、そうさせられた、この映画はきっとずっと心に残り続けるのでしょう。

 フータロスの力で存在させられていたからこそ、やりたい放題できたジオウのターン。女子高生ツクヨミがとにかく可愛かった。可愛すぎる。あんなにも天真爛漫で友達とパンケーキを食べに行きキャッキャして、一際輝く黒髪ストレートのクラスメイトのあなたは本気で3点とか取ってしまう。どっかの泣ける系恋愛映画に出てきそう。またはまっとうにラブコメ。推したい……この子と同じ世界線に生きてリアルな推しにしたい……とか思っていました。受験勉強をガリガリするゲイツくんも、なんというかそういうかわいいところあるよね、と最近のTVシリーズと合わせて思いました。

 わたしは平成ライダーのファンではなく(子どもの頃はプリキュア派…というよりハム太郎派でした)ビルドのファンなので正直この映画を楽しめるか不安に思っていたところはありました。結果としてビルドがビルドで最高だったので何ら問題はなく。
 そして何より。電王やW、その他平成二期のライダーは最近になって履修したので、今になってリアルタイムで目撃できることに感動したのです。歴代ライダー大集合!のところで知っているライダーが出てくるとテンションが上がりました。
 電王、正直あんまり覚えていないので復習して行けば良かったと後悔しちゃっているものの、良太郎が出てきた時には会場中と一緒にわたしもどよめいたしイマジンたちのわちゃわちゃに超感動した。

 ビルド組と電王がほぼ交わらなかったのが残念に思いつつも、交わるべきでないとも思いました。わたし、犬飼さんのこと勝手に近い将来日曜劇場の主役を張る俳優になると思っているので。本編後半で、エボルトになったり葛城巧になったりそういえば佐藤太郎ではっちゃけていたりして第二の佐藤健だ!って話題になったじゃないですか(なったよね?)厳密にはお二人は違うと思っていますしそういう第二の○○というレッテルは本来剥がさなければならないと思っているのですが、まあ歴代きっての超すごいライダー俳優と同等かもしれないと話題になる理由は分かります。だってすごいもん。だからこのお二人が共演してしまうことって、ある意味タブーなんじゃないかって、そんなことを後から考えるなどしていました。

 そういえば、序盤でジオウ側にはアナザー電王が、ビルド側にはアナザーWが襲ってくるのがすごい分かる……って思いました。時間モノと、相棒モノ。
 わたしはWが超好きなので今回の謎が残りまくる描かれ方はまあ思うところありましたが…ウォズ*3を見ていればそのうち分かると信じて。

 それから、ティードが少年ジャンプの悪役然としているなあと思いました。
 ティード、好きですね……悲しい感じの悪役。悲しみは怪人態に現れるものです。大東さんうまくてやっぱりすごかった。そりゃそうなんですが。あまり描かれない中でバックグラウンドを想像させる役者はすごいってどこかで聞いたことがあります。まさにそういった感じ。顔がいい…とか余計なこと考えてしまうのも仕方ないですね。ティードVS戦兎のシーン、顔のよさがぶつかり合ってほんとうに世界滅亡しちゃうぞ…とか思いました。


 世界中の明日を創ったヒーローと、これから使命を背負うヒーローと、みんなの記憶に残り続ける歴代ヒーロー。深みのある悪役。見る者が感情移入できる兄弟。平成最後のライダー映画に相応しい、ある意味王道な構図の作品だったのではないでしょうか。

まとめ

 観終わったあと左隣の人が「すごいよかった…」と呟き、右隣の人は「ドライブ……」と感傷に浸り、後ろからは「良ちゃんおかえり〜!」という泣き声が聞こえてきました。わたしはベストマッチがベストマッチなあまりにぼうっとしながらコートをゆっくりと羽織りました。皆、それぞれがたっくさん思うことあったんだなあって。この映画はすごい。そこで改めて思いました。
 わたしが観た回は日曜日の真っ昼間だったにも関わらず(だからかな?)子どもは少なかった印象があります。それは特報などがかなり大人向けに作られていたこともあるのかなあ、と。でも子どもにこそ観てほしい映画だとわたしは思いました。この希望を胸に抱いて大人になってほしい。
 子どもから大人まで、観た人すべての心に希望を灯す平成ジェネレーションズFOREVER、ただただ最高でした。