古びた壁

脈絡なんてものは知らない

ミュージカル「さよならソルシエ」3/18夜公演

さよならソルシエ」3/18ソワレ

もう一週間以上経ちました。これはレポに残さなければ…!と思うほどよかったのでこの機に書いてみたいと思います。思うことがいろいろあるので後日編集多々あり。

※長いです。
※がっつりネタバレを含む感想。
※一応原作と照らし合わせながら書いていますが、台詞は曖昧です。シーンの順番もめちゃくちゃです。

 プレミアムチケットで前方席下手側でした。
 いつものことだけど近くてびっくりする。舞台中央にイーゼル(キャンバスを立てるやつ)が置かれていて、今回は中央の席でないと見にくい部分が多々あったなあ…と。テオはソルシエ(魔法使い)だからそうした見せ場がちゃんと見えなかったのが残念でした。あとたぶんどちらかといえば上手側の方が良席。教会でフィンが耳を撃ちぬくシーンも、亡くなったフィンに縋りつくテオのシーンも、上手側だったので。西田さん演出の舞台は初めてですが、もしかしたら一枚絵のような舞台を作られる方なのかなあと思いました。センターから見るとすっごくきれいでうつくしさすら感じる、そういうものは嫌いではないしむしろ好きなんですが…あいにく下手女なので損してる…。

 とはいえ、観劇後の満足度は今までで一番と言っても過言ではない。

 伴奏はピアノ一本で、下手側にピアノが置かれています。なのでピアニストさんは最初から最後まで舞台上にいらっしゃる…。
 一幕。書斎のような場所に、戯曲家ジャン・サントロ(合田雅吏さん)がふらふらと登場。それから「ずいぶん酒にのまれているな」という台詞でテオドルスが。
 テオ:とある画家の人生をまるごと作り替える。
 ジャン:こんな面白い仕事はない。

 それからジャン・サントロの「どんな奴だったんだ?」という問いかけにより回想が始まる=物語が始まります。原作でこの戯曲家が出てくるのは最後の最後なので、そうきたか~といった感じです。
 合田さんは出てきた瞬間からうまいなあと思いました。ちゃんと舞台上で生きてるというか、、2.5舞台では生きてる感はそこまで求められず再現率が重視されるイメージがありますが、ソルシエは全体的に再現率はもちろん生きてる感がよく出ていると感じました。命あふれるミュージカル。
で、オープニング。もうかっこいい、ひたすらかっこいい!うつくしいという意味でかっこいい。
さて諸君、ここで話す話は誰にも漏らしてはならない」と原作ではテオが画家衆に向かって言う言葉が客席に向かって投げられます。というより、言い包められるというか…誰にも漏らしませんとも!ってなる。本当にペースに巻き込まれる。
オープニングの「ギフト」というナンバーは公式で稽古場映像として上がっていましたが今は非公開で見れないようです。かなしみ…。

 率直な感想は、東宝っぽいーーー!
 オープニングに限らず全体的に…。本当にミュージカル!って感じです。アンサンブルに東宝芸能の方が多く、東宝ミュージカルを代表する作品の一つである「ダンス・オブ・ヴァンパイア」のアルフレート役が二人*1いらっしゃいますからまあそりゃそうだよね、という…東宝作品好きなので胸熱でした。
 それからアンサンブルの質がよい。アンサンブルの質が高い舞台はだいたい良い舞台です。アンサンブルって本当に大事です。しみじみ。
 
 原作をぱらぱらと読み返していると蘇ってきます。ああこのシーンもよかった、ここの演出はこんな感じだったな、と…。ストーリーを追って述べていたら詰んでしまいそうなので印象的な部分の感想をざくっと。
 
 浮浪者VS偽浮浪者(ムッシュ(窪寺昭さん))の賭けチェスでテオが「俺の言うとおりにやってみろ」と浮浪者につくシーン。「CHESS」というナンバーは曲そのものがまるでチェス盤で、テオの頭脳を表すような演出だったと思います。テオがプロの階級者。格が違う、オーラが凄い。衣装効果だけではないはず、、階級者らしく堂々としていて高貴。その姿に隙もなければわざとらしさもない。ナチュラルにこなされています。
 非常に細かいこと。「セオリー」の発音が好きでした。全く関係のない話、某エリートソングにも同じ単語が出てきますが、そちらも「セオリー」の発音が好きです。そういうさだめ…?

 フィンセントが通りがかった葬式会場にいた男性(亡くなった方の兄)がいい演技をしていたなあと思いました。アンサンブルの方でしょうけど未だに誰だか分かりません。なんとなく検討はつきますが…。
 メインキャスト+アンサンブルとなると技量の差がちょっと見ていて苦しいことがありますが今回はそういうことが全然なくて。2.5次元というジャンルの中でも平均レベルがずば抜けて高い。大人の2.5と謳われていますが、本当にそう。2.5の枠から飛び出てもいいのではとすら思います。"原作のある舞台"がこれまでなかったわけではないし…今でこそ盛んな2.5次元という概念がなくとも成功をおさめたんじゃないかなあ、、と。

 テオは若い画家衆やアカデミーのおじさま方の前では気高く振る舞っていますが、フィンセントといると彼の中で何かが僅かに乱されています。非常に些細な変化。勘の良い人がいれば「何か言いたいことがあるのか…?」と言われるであろう目つきを劇中で何度かしています。
 一幕最後でテオは、フィンセントがその才能をたった一人のちっぽけな町人に捧げようとしていることに憤りを覚えて、きっとどうしようもなくなって、フィンセントが描いた絵の一つに赤い絵の具をその手のひらで塗りつけます。カーテンの向こうのテオと表にいるフィンセント。怒るテオと無垢なフィンセント。兄弟の互いへの想いを歌う「糸杉と星の道」息を忘れるほど惹きこまれました。
 赤い絵の具を塗りつけるのはカーテンの向こう側でのことで、赤のついた絵画が小道具として別に用意されているのかと思いきやちゃんと赤い液体を手のひらでべちゃっとしている。カーテンから出てきたテオの手のひらが赤くなっているのを見てちょっとおおおってなりました。液体を使うと途端に生物感が増す…!

 一幕は謎の、おそらくいい意味での疲労感を得て終えました。ここで休憩がなかったらどうなっていたか…(笑)
 それが二幕ですっきり満腹感にくるめられる。

 フィンセントが怒りを覚えて、絵を描くために各地を旅する。そのさなか、さあ今こそという時に、つまらぬ運命で殺されて死ぬ。そしてテオは戯曲家ジャン・サントロの元を訪れて…炎の画家の人生が完成される。
 怒涛の二幕は見せ場のオンパレードといった感じです。

 兄弟愛を感じました。フィンセントが怒りを覚えて自分の耳を撃ちぬいて、テオはフィンセントにたっぷりの想いを込めて寄り添う。「ああ…行こうか、世界の果てまで」と。
 アフタートークでは顔が近くてびっくりすると言われていたとかなんとか風のうわさで聞きましたがww
 圧倒的兄弟愛です。あまりに二人の世界なのでフィンセントを攫ったグーピルのおじさま方が勝手にしろと立ち去るやつです。これ原作ではテオがフィンセントに手を差し伸べているだけで、、なんというかやはりこのミュージカル、圧倒的兄弟愛

 フィンセントが死ぬ直前にテオ宛に書いた手紙をテオが読むシーン。
 テオが手紙の冒頭を口に出して読み、ある言葉でフィンセントが声をかぶせ、そこからはフィンセントの声で手紙が読まれる。そんな演出でした。それも歌を交えて。「手を」という最後のナンバーです。名曲だ…!とにかくうまいので、、平野フィンセントの明らかなる見せ場ですもん(笑)まあクライマックスだから…!
 フィンセントが手紙を読むテオのまわりをフィンセントらしくゆらゆらふわふわ歩きながら歌います。その中でフィンセントがテオに帽子をかぶせてあげる。そして「テオ 手を……」と消えていく。
 客席はいたるところで啜り泣く音が。数えるほどしか感動で泣いたことがない私でもかなりうるっときましたしぶっちゃけちょっと泣きました。だって泣かせにきているもの……
 
 大胆な演出をされる方だなあという印象を抱きました。ずっと観たいと思っていた西田さん演出の舞台。キザなことをさらりとやってのける。恥ずかしくてできそうにないことをシンプルに。あと、一枚絵だなああ(笑)作品によるのかもしれませんが、、言ってしまえばそういうところが好き、複雑…。次はおそらく「瞑るおおかみ黒き鴨」です。楽しみ。

以下キャスト別感想。

 まず画家四人衆ですが、バランスがいい。わちゃわちゃしてる。Kimeruさんがけっこう低めの声を出されていてフィンセントの「気のいい友人」って感じがしました。
健斗くんは率直に歌うまくなってたなあって。最後に聞いたの薄ミュLIVEだから2年、、2年は長い…。最近ミュージカル多いなあとは思っていた、、よくハットかぶってらっしゃるからTwitterのオフショ見てても「あれ!?私服じゃない!?」ってなっちゃう(笑)
 画家四人衆の皆様はそつなくいい仕事をされてるなあという感じでした。主張しすぎず、芸術家らしく我は我だという風にわちゃわちゃと。あくまで主役はゴッホ兄弟なのです。

 大人組と言っていいのでしょうか。戯曲家と偽浮浪人と…ジェローム様。やはり貫禄があるなあと。
 いわば今回の悪役ジェロームを演じる泉見さんはさすがとしか。ソロ曲の迫力が凄まじかった。ジェロームはあの話の中では悪役ですが彼には彼の信念があるはずで、保守派に過ぎないあくまで人間であり芸術家である。(やり過ぎな気もするけれどあの時代ならそこむで咎められない?)それがあのソロ曲で表されていたのではないでしょうか。歌詞あんまり聞けていないですが…。
 ブルーシアターであんな風に歌い上げるのだからそりゃもうすごい。帝国劇場inブルーシアターみたいな…(?)突然始まって圧倒され尽くして歌詞はほとんど聞けなかった、、心してもう一度聴きたい。

 平野フィンセント。分かってはいたけれど、すごい。本当にうまい役者さんだなあと思います。言い回しが独特ですよね。でもうまい人の言い回しだ…ってやつです。
 「手を」ではやわらかく歌い上げられて、抱擁感もありました。兄の抱擁感…。舞台が、客席全体が、包まれた。そう思います。
 最初の方で空を見上げながら(客席には背を向けて)立ち去るところがすっごく原作のフィンセントでした。なんだろう、フォルムが…!
 元々ある剛柔のメリハリがソルシエでのフィンセントにはまっていたと思います。

 良知テオ。
 良知さんの歌が聴きたくて芝居が観たくて、それが今回チケットを取った7割方の理由です。ちらっとどこかで見かけたのですが5分の4も舞台上にいるらしく…それは惹かれないわけないだろうと…とても魅力的なソルシエでした。
 ふわりと聞いてはいたけれど帽子芸がさすが、きれい。椅子の角にさっと乗せていたけれどあれよく落ちないね…?落ちちゃった回もあったそうですが。くるくると華麗なハット裁きはそれだけで一価値があると思います(贔屓目大絶賛)
 それから所作のうつくしさ。足の組み方、ティーカップの扱い方、腕の伸ばし方…きっちりしているわりに何も強くないんですね。上流階級らしいというよりはテオドルスらしい高貴な所作でした。
 あと口の悪い瞬間が最高でした。ずるい。全体的にずるい
 全公演終了後のブログ*2に「宝塚男役トップスター」のイメージでという演出があったと書かれていましたが、そう言われてみるとたしかに「宝塚男役トップスター」っぽい。キービジュアルが既にそうだなあ。
 最後の歳を取ったテオが現れるシーン。これ良知さんの提案だそうで、この人すごいなって思いました。一面のひまわり畑はこの大胆さが西田さん演出かなあ、、そう考えると一面のひまわり畑という大胆な発想に歳をとった良知さんのテオが現れるってとてもおもしろい。舞台という創作物のひとつの果て…醍醐味…演劇の面白さを垣間見た気がします。
 良知さん感もほとんど消えてしまっていて「あれ…?」ってこれでは良知さんが見れないー!とか血迷ったことを途中で思っていましたが、それほど本当にテオドルスが舞台上にいたんだなあと。
 2.5になると中の人の存在が消えるタイプ……実は憑依型なのかなあ。憑依型とかそういうのはイマイチ分かりませんが、、次はブラメリです。おそらく存在が消えないタイプ(?)のがっつりミュージカルです。楽しみ~~!

 
 カーテンコールで良知さんが「うちのお兄ちゃん」って仰っていたのが未だに響いています。「うちのお兄ちゃん」毎回やってるみたいで…こういうサービスは千秋楽でしかやってくれないことが多い気がするから3ステ目でまさか衝撃発言あるとは思っていなかったので死角を狙われた…!という気分。お兄ちゃん……この兄弟、実年齢(?)は逆だそうですね。むちゃくちゃ兄弟仲良さげで私もしあわせです。本当にこのお二人がゴッホ兄弟でよかったな…。
 
 全体として。演技の質も歌も踊りも2.5次元というジャンルにおいては平均値がとにかく高い。というか主役二人がシンプルにうまいし、(技量的な意味でも)周りのバランスもよい。一つのミュージカル作品として十分成し得ると思います。歌詞が抽象的というか単語を並べるタイプで文章ではないのでそこは賛否両論かなあ。演出も非常によかったというか好きでした。
現実的には3.9ぐらいでしょうけど個人的にはそれでは物足りないので4.0/5.0ぐらい。数値化はあまりしたくないですがこういう気持ちです。3.9だろうけどいやいや4.0、という。リピーターチケット購入したかったなあ、、劇場にはお財布を軽くして行かない方が良いこともある。
 原作がこれで完結なので続編はありませんが、再演は期待していいのでは…再演してほしい…!また平野フィンセントと良知テオを観たい。特にこの二人は再演した時の進化が楽しみです。まだまだ余白を感じたので。このミュージカルはキャスト変更はあまりしてほしくないというかしてはいけない感じがします。生きてる感がすごかったのでうっかりどこかを変えたらまったく別物になりそう。でも兄弟はスウィッチキャスティングで見てみたい。ものすごい贅沢だ、、!
 初日もこの日の昼公演もスタオベだったそうですが、この回では立ち会えず。心の中ではスタオベです。